供述の変遷
ある出来事について繰り返し供述を求めた場合,最初から最後までその供述内容に変化がないことはむしろまれです。細部に変化が生じることは常に起こりますし,時には全く正反対の供述が生まれることもあります。それらは意図的に変化させられることもあれば,誘導の結果変化することもあり,あるいは無意識のうちに記憶が変容していることもあります。
次の表は私たちの実験で得られたデータの一部です。幼稚園児の前から失踪したゴウくんについて,その後見つかったことを子どもたちに報告してくれたのは誰かを繰り返し訪ねてみたのですが,同じ事態について尋ねているにもかかわらず,子どもによって言うことが全く異なり,さらには同じ子どもでも時と共に変遷しているのが分ります。
出典: 山本登志哉・高岡昌子・齋藤憲一郎・脇中洋 1997
生み出された「物語」:幼児と大人の共同想起実験から
季刊雑誌 発達 69 41-57 ミネルヴァ書房 |
この結果は幼い幼稚園児だからと思われるかもしれませんが,実際の事件の調書を分析していくと,たとえ大人でもこれに近いような事例にしばしば直面します。
このような事態にであったとき,その中から「正しい」供述を選択するという,とても困難な課題が与えられるのですが,判決でしばしばみられる方法は,証言者の全体的な信用性判断を行って,より信用できる人の証言を無条件に正しい供述としたり,判決の結論から逆に取捨選択をし,対立する供述については理由も示さずに却下する,といった対処法です。いずれも心理学的に見れば,それは予断による主観的な判断であり,合理性を持った妥当な判断方法とは言えません。
供述心理学では可能な限り元の事態に近づけるために,供述の変遷過程を分析するということが基本作業になります。すると変遷には何らかの方向性が見えてくることがよくあります。一見でたらめのように見える供述内容の変化にも,それを引き起こすなんらかの原因が推定できることがあるのです。それは供述者の意図的な力(嘘など)によるもの,聴取者などからの圧力によるもの(誘導や強要),後に得た情報の混入によるもの,一般情報あるいは一般的認知枠組みの影響(スキーマなど)によるものなど,複数の要因によって生み出されます。
これらの要因を考慮しつつ,供述の変遷過程を逆向きに辿っていくことで,後発の情報や「理解の進展」による記憶のゆがみの影響を取り去って,実際の体験に近い情報を推定することが可能になる場合があります。
矛盾対立し,変遷する供述から,「正しい」と思われるもの(あるいは結論にとって都合のよいもの)を恣意的に選択するのではなく,供述の生成過程のそのものの運動法則から,より合理性の高い評価を導こうとするのが供述分析の基本姿勢となります。