供述心理学研究所・埼玉

目撃証言の変容


 「体験から記憶,供述へ」や「物語としての供述」で説明したように,供述は体験事実そのものの表現ではありえません。それは様々な要因で変化していきますが,その変化はでたらめに起こるわけではなく,「供述の特性」に基づいて「心理学的な合理性」を持って生じます。

 目撃証言も,いろいろな要因で変化すること,そしてその変化の法則性がこれまでの心理学的研究から明らかになってきています。たとえばKassinら(2001)は,それまでの研究で次のような要因が目撃証言に影響するものとして取り上げられてきたとしています。

1.高いストレスが証言の正確さを損なう。  

2.凶器に注目すると犯人の顔の識別が不正確になる。

3.単独面通し(一人だけを見せて犯人かどうか確認を求める)は誤った判断を招きやすい。

4.ラインアップ(複数の人物を並べて犯人かどうか確認を求める)では,容疑者に似た人物をそろえる方が識別の正確性が増す(つまり,全く似ていない人物がたくさん混ざると,間違った人物を犯人に選び易くなる)。

5.ラインアップの実施時に,警官がどういう指示を出すかで目撃者の識別への意志が変る。

6.目撃時間が短いほど,想起が困難になる。

7.出来事の直後の時期が最も忘れていく内容が多く,その後は失われていく情報はだんだん少なくなっていく。

8.目撃者が犯人の識別に自信を持っているかどうかで,その識別が正確かどうかを判断できない。(自信たっぷりに間違えることはよくある)。

9.目撃証言には実際に見たことだけでなく,後に得た情報が紛れ込むことがよくある。

10.単色光で照らされたものを見た時の色の判断は信用できない。

11.目撃証言は,尋ねる際の質問の語法によって影響される。

12.目撃者は他の場面で会った人物を,容疑者と勘違いして述べることがある。

13.警察官や訓練された観察者の目撃証言が,一般の人の平均より正確であるとはいえない。

14.催眠によって目撃者の記憶の報告量は増加する。

15.催眠によって誘導や誤導質問への被暗示性が高まる。

16.目撃者の態度や期待が出来事の近くや記憶に影響する可能性がある。

17.暴力的な出来事を想起するのは,非暴力的出来事よりむつかしい。

18.異なる人種の人物を識別するのはむつかしい。

19.目撃者の自信(確信度)は,証言の正確さとは関係ない要因によって影響される。

20.アルコールを飲むと,後の目撃証言の正確性が損なわれる。

21.容疑者の写真(マグショット)をあらかじめ見る経験があると,後にラインアップでその人物を選びやすくなる。

22.トラウマの経験は長期間抑圧された後に回復する。

23.児童期の記憶が回復したという場合,その内容はしばしば間違ったり,ゆがんだりしている。

24.正しい記憶と誤った記憶を,信頼できるレベルで弁別することは可能である。

25.幼い子供の目撃証言は,大人より正確さに欠ける。

26.子どもの証言は大人より,面接者からの暗示や仲間からの圧力,社会の影響を受けやすい。

27.目撃者による容疑者の記述に似ているメンバーを集めたラインアップの方が,正確な容疑者の特定につながる。

28.ラインアップで相対判断をさせると(「どちらの方が似ているか」といった聞き方。⇔絶対判断「誰が犯人か」)誤った判断になりやすい。

29.高齢者の目撃証言は若い成人より正確性が低下する。

30.ラインアップで素早く識別できる目撃者の方が,より正確な犯人特定をしている傾向がある。
 
 これらは心理学の実証的な研究によって見出された一般法則に属するものであり,あくまで一般的な傾向を示すに留まりますので,個別の具体的事件の供述の真偽を直接判定することはできません。しかし供述者の自信の有無や誠実さの有無に関わらず,これらの条件が目撃証言の正確性に影響を与えうることは十分意識しておく必要があります。

 特に供述動機の評価において「嘘をつく動機が存在しない」とみなされた供述者について,その供述の全体が信用でいるものとしてみなされてしまう判決が現に存在しますが,嘘をつく意図の有無と,供述の正確性は別次元の問題で,前者によって単独に個別の供述内容を肯定することは本来論理的にも不可能です。



(参考文献)
 厳島行雄・仲真紀子・原聰 2003
 目撃証言の心理学 北大路書房